中国人が語る陳皮の話| 奥深いチンピの世界 | 値段 鑑定法 食薬 漢方(みかんの皮)Citrus Unshiu Orange Peel
こんにちは。本日は陳皮(チンピ)のお話です。
日本薬科大学にて陳皮の研究されている先生から陳皮の新しい効能などをお伺いしました。それをきっかけに中国の陳皮事情を調べ、中国のお客様や友人にも尋ねてみたところ、思った以上の情報が集まったのでブログにしました。(聞き取りの原文中国語は緑色表示)以下はそのまとめです。(2018年に公開。以後数回加筆)
Contents 目次
- 陳皮(ちんぴ)とは
- 古代中国 茶にミカンの皮を入れて飲んでいた
- 中国の薬物書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の陳皮
- 中国の薬物書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の陳皮
- 「ミカンの皮は陳皮ですか 」の質問へ医師が答える
- 中国 陳皮を日本へ輸出していた (中世)
- 中国の陳皮ブーム その1
- 陳皮の産地 – 名高い広東新会陳皮
- 陳皮の年数による香りと味の比較
- 陳皮の年数による効能、値段の違い
- 中国の陳皮の利用法と効果 (謳い文句)
- お茶に陳皮を加える 風味と作用
- みかんの皮に詰められたプーアル茶 (小青柑 柑普茶 桔普茶)
- 中国ドラマ 清代 紫禁城での陳皮処方 (暑気あたり)
- 陳皮白茶 かわいい固形茶
- 陳皮黒茶 陳皮茯茶(ちんぴフー茶)
- 陳皮のニセモノに気をつけよう 経過年数と外観変化
- チンピで有名な新会 梅江村ってどこにある?
- 生産者に聞く みかんの栽培と陳皮生産の苦労
- 中国 陳皮はどこで買えるのか (購入場所)
- 日本で買える陳皮の種類
- スパイスとしての陳皮
- 生薬としての陳皮 (漢方薬の成分として)
- 陳皮が入った漢方薬
- 陳皮と中医学の処方箋
- 中国の陳皮ブーム その2 (新型肺炎絡み)
- 新型コロナウイルス肺炎治療計画「清肺排毒湯」中の陳皮
- 陳皮とアルツハイマー病の予防効果の研究
- 陳皮関連の動画 ミカン畑・栽培 陳皮の品質鑑定
- チンピとオレンジの精油(アロマオイル)の共通点
陳皮(ちんぴ)とは
陳皮とはミカンの皮です。温州みかんの乾燥した皮で、漢方薬の材料(生薬)としても使われます。単に乾燥したミカンの皮が陳皮と呼べるのかというと、少なくとも中国ではそうではないようです。
ある程度の年数を経過したものが陳皮と言えるようです。その基準は日中相違があるかもしれません。以下は中国の話をメインに書いています。
古代中国 茶にミカンの皮を入れて飲んでいた
中国では古代からミカンの皮をお茶に入れて飲んでいます。
中国最古のお茶の専門書である茶経(760年代)には「葱、棗、みかんの皮、茱萸、薄荷などを入れるのは、お茶の味を損なうので良い飲み方ではない (*1)」という主旨の意見が書かれています。
このあたりの時代には、みかんの皮をお茶に入れて飲んでいた事がわかります。みかんの皮/陳皮は、お茶の寒性を緩和するものとして、また消化や気を巡らすことを期待してなのだろうと思います。
*1 饮有粗茶、散茶、末茶、饼茶者,乃斫,乃熬,乃炀,乃舂,贮于瓶缶之中,以汤沃焉,谓之茶。或用葱、姜、枣、橘皮、茱萸、薄荷之等,煮之百沸,或扬令滑,或煮去沫,斯沟渠间弃水耳,而习俗不已。
中国の薬物書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の陳皮
さて、更に時代を遡り、紀元1-2世紀、漢代にできたと言われる中国最古の薬物の専門書「神農本草経」を見てみます。
中国では、陳皮の古称は、「橘皮」、「橘柚」、「黄橘皮」などとの解釈があります。
神農本草経(原文はこちら)では「橘柚」を陳皮の参考にできるようです。「橘柚」の箇所を御覧ください。
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橘柚:「無毒で、養生に使える、長期摂取可能」である「上品、上薬」に分類されています。(*2)
また性質(性味)が「辛」「温」であること(*3)、”消化を助ける”などとの効能も書かれています。(*4)
「辛 温」 については、「生薬としての陳皮」の章をご覧ください。
*2 上药一百二十种,为君,主养命以应天,无毒。多服、久服不伤人。欲 轻身益气,不老延年者
*3 橘柚味辛温
*4 主胸中瘕热逆气,利水谷。久服,去臭下气通神
見づらいですが、翻訳アプリ日本語自動変換版はこちら(※)です。「橘柚」は ”オレンジザボン”または”みかん”と訳されています。
※Googleなどの翻訳アプリでの訳文は正しく訳されていない場合もあるのでご注意ください。
中国の薬物書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の陳皮
本草綱目は、中国明代の16世紀、李時珍(り じちん)が著した薬学書です。薬として使える動植物などが記載されています。
本草綱目では「橘」(みかん)の欄に、みかんの実、皮、種、葉のそれぞれの薬効が書かれています。皮は、下記の様に黄橘皮 と青橘皮の2種類に分けて記載があり、”陳皮”の薬効は、黄橘皮の欄を見ると良いようです。
黄橘皮:(紅皮、陳皮)辛、苦、温、無毒。
青橘皮: 苦、辛、温、無毒。
本草綱目の原文はこちらにリンクします。具体的に”陳皮”を用いる症状がいくつか記載されています。(痰など、他多数)
見づらいですが、翻訳アプリ日本語自動変換版はこちら(※)です。”イエローオレンジピール”または”黄色いオレンジの皮”と訳されている箇所が 黄橘皮の薬効です。
※Googleなどの翻訳アプリでの訳文は正しく訳されていない場合もあるのでご注意ください。
「ミカンの皮は陳皮ですか 」の質問へ医師が答える
「ミカンの皮は陳皮ですか (橘子皮是陳皮吗?) 」との疑問に、 中医学の医師が回答をしている「有来医生」というサイトがあります。
「新鮮な橘皮(ミカンの皮)が加工や時間的経過を経て陳皮となる」との解説ですが、より詳しい説明は下記のリンクから見てください。
河北省人民医院の医師の回答 (翻訳アプリ日本語自動変換版)
西安交通大学第一附属医院の医師の回答 (翻訳アプリ日本語自動変換版)
※Googleなどの翻訳アプリでの訳文は正しく訳されていない場合もあるのでご注意ください。
中国 陳皮を日本へ輸出していた (中世)
陳皮は生薬として中世の日本へも輸出されていました。1323年に中国から日本に向かってる途中に沈没した貿易船(新安船)に陳皮が積まれていました。韓国の新安沖に沈没し1970年代に引き上げられました。沈船については新安船のブログをご覧ください。
多種のスパイスと薬草(medicinal herb)が新安船で見つかりました。ほとんどは中国の南方産と東南アジア産です。胡椒、シナモン、丁子、 銀杏… タンジェリンの果皮(dried tangerine peel)などが含まれていました。
国立海洋文化財研究所 新安船展示品 解説文
Various spices and medical herbs were found in the Sinan shipwreck. Produced mostly in Southern China and Southeast Asia, they included pepper, cinnamon, dried cloves, gingko nuts, plums, croton seeds, lychee, Chinese honeysuckle fruits, cornus fruit, betel nuts, ginger, and dried tangerine peel….
運ばれていた食物の沈船での状態なども分かる書籍です。
中国の陳皮ブーム その1
(2018年 筆)4,5年前から中国では陳皮ブームが起こり、それ故、相当数の人たちが陳皮に興味を持っているようです。これまで陳皮を買ったことがなかったけど、ここ数年よく買っているという人もいました。
確かにその頃から中国の茶市場では、急にみかんの皮に入った普洱茶(プーアル茶)が多くなり(桔普、柑普と呼ばれます)、どこでも目につくようになっていました。小青柑という小さな種類の桔普も登場しました。小青柑の記事はこちら
桔普、柑普は新鮮なミカンを収穫して、普洱熟茶を詰めます。「出来て三年経ったら陳皮普洱茶と呼べる」という人もいます。明確な基準はまだないようです。
写真:中国人の友人のお土産。みかんの皮に入ったプーアル茶(桔普, 柑普)
こちらの桔普茶、淹れるとミカンの香りが立ち上り爽やかで、華やかな気持ちになります。深いプーアル茶の味とのマッチします。また、このミカンの皮を少しを白湯に入れて飲むと、爽やかさと甘みがあり、心身ともに心地よく、病みつきになりそうです。
近年、展覧会(博覧会)では高価なものが出てきているとのことです。
陳皮の産地 – 名高い広東新会陳皮
広東省江門市新会区の陳皮が伝統的な産地で名があり、最も効果があると言われています。
中国の知人たちは、誰もが口を揃えて最初に新会の陳皮のことを言いました。ブームのときは宣伝も注目もすごいので、皆が同じ情報を持っています。ブームの大きさを感じました。
(中国人コメント原文)
中国只有新会的橘子的皮才叫陈皮。其它地方的产不出哪样的橘子来
医食同源陈皮主产于南方地区去痰止咳尤以广东化州橘红为佳。广东新会陈皮最好
這几年國内新會陳皮很火
陈皮的使用没有人会比我们广东人更在行。全世界最好的陈皮在广东新会
公认最好的陈皮就是新会陈皮
廣東新會自古就產陳皮
陳皮:廣東+福建+四川均有產,但以廣東新會產的最好。
写真:ラベルに「新会」の表示があります
陳皮の年数による香りと味の比較
年数による味と香りの違いは、中国の陳皮鑑定動画の内容を表にしました。(最終章に動画紹介)
実際私が持っている3年物、12年物を比較すると、香りはこの表の通りだと感じました。
チンピの欠片を割って香ってみると、新しい方は柑橘香(果香)と薬香の割合では果香が多く、古いものは薬香がメインでほのかに甘い果香がします。
香り (擦って香りを聞く) | 味 | |
---|---|---|
新しいもの | 清らかな 果香 | 酸味の中に苦みがある |
古いもの | 落ち着いた 沈香や薬香 | 味がまるくなり 深みと厚みがでている |
陳皮の年数による効能、値段の違い
古いほど価格は高くなります。そして薬効も高くなります。新会産の物は3年以上のものでないと「陳皮」と呼ばない定義もあるようです。5年ものは古いと言えないとの意見もありました。
年数は、20,30,50年以上の陳皮もあるとのことです。「ただ、その年数を正しく測る方法はありません」との意見がありました。古いものは特に信頼できるお店で買うことが大事でしょう。
「自分で新しいものを買って寝かせるといいですよ。そうすると経過年数も分かるし、新しいものは値段も安いですから」良いアイデアです。これは保存の環境(湿気を避けるなど)も大切になります。
数十年の老陳皮は香港の商人が買い占めているので、「最高級のレベルのものが欲しければ香港へ行くのが良い」という人もいました。「ただ、金よりも高い」と…。(調べましたが、現在金は1g 4800円超です。炒作感があります)
知人のコメントです。
新しいものは三桁の価格(三桁とは例えば500gで300元。中国では500gが基本単位)、10年20年30年物は四桁五桁の数字になります。
以前私は27年物を500g当たり48000円の金額のもの買いましたが、今でも品質の良し悪しを識別できません。古く見せかけたものでないか心配です。特に何でもブームになった後は、利益が先行し秩序がなくなります。以前ある人に三十数年物の値段を聞いたら、10000元超でした。もし陳皮について理解したい場合は、自分で新会へ行くのがいいでしょう。
(中国人コメント原文)
老的價格也高
陈皮放置年份越长越好!
陈皮在于陈年。存放越久功效越强。
但是时间上无法准确判断。
一般人会自己买来存放。就知道准确的时间,新的也会便宜一些。
价格是根据年份定的。年份久的价格就高。年份近的价格就低。
三年的才能称得上是陈皮,五年的不算老,二十年、三十年、五十年的都有。
只有存储三年以上的才能称之为陈皮,也有五十年也上的陈皮,那个就很珍贵了。
好的陈皮是越老越值钱,现在几十年以上的老陈皮最好的货全部都给香港商人收购了,所以要买到最顶级的陈皮要去香港,但是几十年的老陈皮比黄金还贵,普通人享受不到。
我这个不贵,人民币1300一斤,可以散称,不用买一斤。(5年物)
最好是买新的來自己存放,新的就小三位數,十年二十年三十年就四五位了。我之前买了些號称二十七年的, 三千一斤,但是我現在也弄不明白辨識不了好壞,擔心做旧什麼的,尢其是一個東西火了后利益驅使就乱。上次我問一個人三十几年的他说要過萬,如果你要了解自己去到新会。
写真:左から1年物、2年物、10年物 (新会産)
写真の陳皮は「 广东勤德田农业公司」「 广州汇鑫诚泰中药投资有限公司 」の社長さんから頂きました。野菜、中薬(生薬)を扱う企業です。広東勤德田農業公司は「菜叔菜婶」というブランドで広州市内に定期便で安全な野菜をデリバリーしています。 ちなみにこれらの陳皮のお値段は聞いてません。
中国の陳皮の利用法と効果 (謳い文句)
さて、中国には陳皮の多様な用途を示すキャッチフレーズがあります。
「一片陳皮,三瓣帰途,一瓣入薬 一瓣入膳 一瓣入茶」
「1つの陳皮、3つの花びら。薬に1枚、食に1枚、茶に1枚」
(1つは薬用、1つは食用、1つは茶用)
※花びらとは陳皮の原型、ミカンの皮を3つに開いて乾燥させた様子
その言葉を表すように、知人たちへの聞き取りの結果は、用途が薬用、食用、茶用と多様でした。
中国では、陳皮を白湯に入れて飲む、お茶に入れる、料理に入れる、おやつとして食べるなど様々に使っています。効能を考えて(理解した上で)使っている人がほとんどでした。
陳皮に限らず、中国人と食物の話をすると、中医的薬効や熱寒(体を温める作用があるか、冷やす作用があるか)を語る人が多くいます。食養生の知恵が民間に広く伝わっていることに驚きます。親から子へ伝えられているのでしょうか。自分の健康は自分で守るという意識が高い気もします。
例:目が不調→菊花茶飲もう、胃が重い→陳皮、ストレス・気がつまる→陳皮・大根 など
(食べもので養生する食養生といいます)
この本は、自分の体の変化・不調の原因と対処を自分で探れ、整え方が分かります。中国の人たちは、このような知識をおおまかでも持っていると感じます。
以下意訳ですが、中国の知人からのコメントです。()かっこ内の薬効もコメント者による意見です。
- 水(中国では通常白湯)に入れて飲む (消化を助ける)
- 日常で白湯を飲みたくない場合、体内の湿で体が重い時、胃腸が不調の場合,白湯に陳皮を一欠片入れる。白湯に味がでるし,その薬効で体の不調も緩和される(化痰作用、健脾作用がある)
- 胃が悪い時、茶を飲むときに少し入れる(胃を温める)
- 白茶や普洱茶に入れて煎じる
- 広州ではスープに入れることが多い
- 医食同源、痰を取り,咳を止める
- 料理に入れる
- 新しいものは料理に入れて、10年以上のものはお茶などの飲料として飲む
- 肉の煮込みの香り付け、スープに入れる(寒涼性のスープを中和、燥熱性のスープを中和)
- 質が低いものはおやつ、高いものは薬用(気を巡らす、咳に良い)
- 広東人は春節に橘餅(桔餅)を食べる
- 中薬*3(漢方薬)に使う陳皮は年数が経過してない新しめの物と推測するが、質もそれなりと思う
- 養生の為に使う陳皮は,胃を整え、体内の汚れた気を降ろし、高脂血症降下などの効果がある
- 中国の中医学の医師は皆その薬用価値を知っている。
*3 中国では中医学(伝統医学)の薬を中薬と呼び(日本の漢方薬と同じ位置)、西洋医学(現代医学)の薬を西薬と呼んでいます。
(中国人コメント原文)
廣東人煲湯也喜歡放陳皮
陈皮差的才用来做成零食,好的都是药用,比如消滞,比如通气,还有咳嗽,都可以拿老陈皮煲水喝。还有煲汤也会放陈皮。我们经常泡年份熟普洱茶的时候放一块陈皮,味道更好。
泡水喝、助消化
一般喝茶的人或胃不好的。都要在茶中加一些陈皮来暖胃的。
医食同源陈皮主产于南方地区去痰止咳
广东地区春节人们都会食桔饼或潮州的九制陈皮。
年份低的适合烹调,10年以上的适合冲泡品饮。
一般中药里配的陳皮估計都偏新,質量也一般,國內有泡水或輔茶也有辅食之用
有!我家常备有!炆肉提香,煲汤可以和气(寒凉的汤放了它可以中和汤的寒性,燥热的汤可以中汤的热性),有时同茶叶一齐焗成陈皮茶
现代生活中我们经常用陈皮泡茶,煮老白茶的时候放一点新会陈皮,或者用陈皮和普洱一起泡,不喝茶的时候陈皮也可以用来泡水或者做菜。
陈皮可以去湿化痰,还有健脾的功效。平时如果我们不想只喝白开水,又觉得体内湿气重、脾胃不舒服的话,会在喝水的时候放一块陈皮,水合起来有味道,也可以发挥它的药效缓解身体不适。
不用像泡茶那样去泡,只要在喝水的时候放一块在水杯里就可以了,不过我们一般用热水或温水,很少和冰水。
是养生方面才用的陈皮,陈皮具有养胃,降浊气。降血脂等功效。陈皮在于陈年。
中國的中医們都知道,你可以向他們咨詢藥用價值。
写真: 知人が5年物だとの陳皮を100gおよそ4200円で購入
お茶に陳皮を加える 風味と作用
お茶に陳皮を入れるというコメントが多く届きました。普洱茶と白茶に入れる場合が多いようです。お茶を通じての知り合いが多いので、最前線の情報と思います。前章と少し重複しますが、お茶の部分を抜き出しました。
- 普洱茶熟茶に陳皮を一欠片入れると味が良くなる。
- 福鼎白茶や普洱茶を煎じる時、陳皮を入れると非常に味が良くなる。
- 老茶(年代物の茶)に入れる。陳皮は良いと皆知っている。
- 胃が悪い時、茶を飲むときに少し入れると胃を温める。
- 先日風邪の時、十数年物の老白茶に陳皮を入れて飲み、翌日に風邪の症状が軽くなった。他の人は長引いていた。
陳皮やジャスミンは漢方の考え方では理気(気を巡らす)作用があります。自分自身の体験では、ジャスミン茶や陳皮茶を飲むと、気がつかずに溜まっていた鬱気が晴れ、気分が良くなります。
「いつもの飲み物にちょい足しするだけ! 薬膳ドリンク」にも陳皮は緑茶、ジャスミン茶、紅茶、プーアル茶と相性が良いとの紹介です。分かりやすい説明、気軽に実践できるレシピが載っています。良書です。
(中国人コメント原文)
我们经常泡年份福鼎白茶或普洱加陳皮熟普洱茶的时候放一块陈皮,味道更好
煮福鼎白茶或普洱加陳皮,味道極好
煮老茶的时候放点。都知道陈皮好
一般喝茶的人或胃不好的。都要在茶中加一些陈皮来暖胃的
我上次感冒我就剛開始弄了十几年得老白茶和陳皮,我之后一天就減輕了,其他人感冒很长時間
みかんの皮に詰められたプーアル茶 (小青柑 柑普茶 桔普茶)
”陳皮”として取り扱われているわけではありませんが、ミカンの果実を取り出して皮を器にし、中にプーアル茶を詰めたお茶があります。
小青柑茶、柑普茶、桔普茶などの種類があります。写真は桔普茶で、ラベルに「化痰 止咳 健脾利気」との薬効が書かれています。
やはりミカンの皮ですので、陳皮と同じような薬効です。
小青柑のブログはこちらをご覧ください。茶の淹れ方もご紹介しています。
中国ドラマ 清代 紫禁城での陳皮処方 (暑気あたり)
中国歴史ドラマ瓔珞(エイラク)
ドラマ瓔珞(エイラク)は、乾隆帝時代の宮廷生活が分かるストーリーです。
皇后が夏に果物をたくさん食べているので、体調を心配した女官が侍医に相談をすると、陳皮が処方されました。(第25話)
女官 「皇后は最近水菓子ばかり召し上がります」
侍医 「大量の水菓子はお体を害します。ただ暑気あたりには、陳皮を処方しましょう」
侍医 「消化を助け 暑気を除きます」
たくさん果物を食べると胃が冷えます。胃が冷えると、胃の機能が落ちます。中医学の概念では脾胃(胃腸)は、体のエネルギー(気)や血を作り出すところ・・胃が弱り、機能も落ちると、食欲は落ち、食べれたとしても、うまくエネルギーが作れなくなります。徐々に体力が落ちてくる(疲れやすくなってくる)感じもあると思います。「暑い→冷たいものをたくさん食べる」…夏に起こりやすい体調不良の原因です。
中医学では、陳皮は「温」の性質があり、「理気健脾 りきけんぴ」という作用があります。気と胃腸の調子を整え、体の機能の正常な働きを導きます。「生薬としての陳皮」の章もご参考ください。
陳皮白茶 かわいい固形茶
白茶と陳皮を合わせたものを北京の茶葉市場で見つけました。パッケージやサイズも良くていくつか購入しました。
北京の茶業界の人たちに見せると、皆が口を揃えて「自分で白茶に陳皮を入れるのが良い」と言います。このような固形茶には本当の陳皮は入ってないとのいうのです。
確かに高いお茶でもないし、原料コストを考えるとそうかもしれないと思いましたが、気軽に飲める良い商品ではないかと思います。そして見ているだけでも可愛くて、心が喜びます。
淹れてみると、味は白茶であるので苦みはなく淡い感じで(抽出時間にもよる)、ほのかにオレンジの香がしました。
開いた茶殻をみるとオレンジピールがふんだんに入っていました。水分を含んだピールを噛んで見ると、さわやかで新鮮なオレンジの味がしました。さわやかで新鮮なオレンジの味というのは、時間がそれほど経過していないミカンの皮だということだと思います。外観も水分を含むとふっくらした感じになりました。
陳皮白茶というよりはオレンジピールホワイトティーと呼びたい気持ちです。ちなみに上の写真の丸いお茶は小さいミカンにプーアル茶を詰めた小青柑と檸檬紅茶です。
陳皮黒茶 陳皮茯茶(ちんぴフー茶)
湖南省の黒茶といえば茯茶が有名です。湖南省の黒茶企業「白沙溪」に勤める友人から写真をもらいました。茯茶にも陳皮茯茶が出来ていました。いただいたことはありませんが、黒茶も陳皮との相性が良いと想像できます。
ちなみに英語圏ではフー ブリックティー(Fu Brick Tea)と呼ばれ、ブリック(レンガ)のような形と重さです。中国から持ち帰る時、とても重かったこと覚えています。
陳皮のニセモノに気をつけよう 経過年数と外観変化
最近、陳皮の現地広州に考察に行ってきたという知人(薬局と養生館経営者)が写真を送ってくれました。偽物もあるので気をつけるようにと言っていました。「写真のものが本物の広東新会の陳皮」とのことです。
参考ですが、私が2006~2008年頃に中国で体験したプーアル茶ブームの時は、年数や産地に偽りがある物が出回りました。また、品質に合わない価格で売られているものもありました。品質の判断ができない人も売っていました。買う者が知識をつけるべきだと感じました。大量に買う場合などは特に気をつけましょう。
以下、広東省新会の梅江村と天馬村のサンプルの写真です。
経年の環境にもよるでしょうが、色と萎縮具合は、購入時に年数の妥当性の目安になるかもしれません。(写真は2018年末のもの)
チンピで有名な新会 梅江村ってどこにある?
中国広東省江門市新会区梅江村をグーグルマップでみてみましょう。
生産者に聞く みかんの栽培と陳皮生産の苦労
2021年の9月に、梅江村で陳皮を生産販売している知人から話を聞くことが出来ました。 写真は知人の畑で有機栽培です。2010年から生産を行っています。
栽培の方式は、圈枝と嫁接/驳枝(レモンの木への接ぎ木)の方法があり、知人は圈枝での栽培をしているそうです(下記写真)
新鮮なミカンの皮を保管し、陳皮として3年後から販売をするそうです。
陳皮の生産と販売で何が一番難しいかを尋ねてみました。
難しいのは宣伝(自分の商品を人に知ってもらうこと)で、自分で生産し寝かせているものは良い品です。ですが、ブランド(知名度)がないので、よい品質を理解できるお客さんを探さなければいけません。他に、保管が大変です。毎年1-2回、日光に当てる必要があります。10年間ずっと行います。
推广,自己藏的皮是好就是没有品牌要找懂的人。还有就是保管。每年要翻晒一到两次,一直到十年
広東省の知人の話
保管の状態です。
こちらが生産した陳皮です。
「以前は中国北部の人は陳皮を飲みませんでしたが、新型コロナの流行後はよく売れます。」とのことでした。この件については、下章「中国の陳皮ブーム その2」もご覧ください。
以前北方人不喝陈皮。现在疫情后陈皮很好卖。
中国 陳皮はどこで買えるのか (購入場所)
用途や質(等級)により色々な場所で販売されていることが分かりました。
薬剤としての陳皮は薬局で売っているとのことです。
料理に使う陳皮などは、家庭で必要な食品、薬材、栄養食品などを売っている乾物店(白きくらげ、クコ、棗、ツバメの巣などを扱う店)で買えるようです。ちなみに、保健薬材の調達にもこのような店を利用しているようで、薬食同源が社会と人々の生活に深く根付いていることを感じます。
陳皮をお茶に淹れる習慣があるので、茶葉店でも取り扱っている所があります。
スーパーにも陳皮はあるけど、こだわりのある家庭では良いものが買えないので、スーパーで買うことはないとのコメントもありました。
中国のネットでもたくさん販売されています。
他、中薬(漢方薬/生薬)は病院で売っていて、医者の処方箋があれば買えるけど、普通の薬局では生薬は買えないと言う人もいました。
これまで私は以前どこで買うか分からず、中国ではスーパーでおやつ用小袋を買っていました(おやつで食べるため。味付けなどされたもの)。今は前述の「 广东勤德田农业公司」さんの陳皮を頂き、お茶や白湯に入れて飲んでいます。
下は、北京同仁堂です(有名な漢方薬店)。診察を受け処方箋をもらい、薬局で調剤してもらいます。右の薬局内に生薬の棚(引き出し)が見えます。(2019年撮影)
(中国人コメント原文)
药店有卖,还有在广州卖食材店
不是药店,中国有商店专门买一些家中平时需要用的干货、零食、药材、滋补品什么的。比如银耳、枸杞、红枣、燕窝、人参、海参什么的。这些商店一般都有陈皮卖。平时我们用的保健类药材一般都是在我刚刚说的那种商店买的。
陈皮是一位中药,一般在中医医院开,或者在中药店购买。零食吃的叫陈皮梅吧,在超市有卖的。
中药一般只在医院卖,要医生开处方可以买。普通的药店不卖中药材。
讲究的家庭绝对不会在超市买陈皮,因为买不到好的。
以下は2019年12月に北京馬連道茶葉市場の第三区にオープンした陳皮村というブランドの代理店です(陳皮館)。外から見て安心できそうなお店の雰囲気だったので入ってみました。
お店の方の説明では、市場には偽物・品質が良くないものが多いので、お客様に安心してもらうために品質管理や安全性の取り組みを行っているとのことです。商品パッケージに情報がとれる二次元コードがあり、詳しく説明してくれました。(一回スキャンすると、以降は無効になる品質保証コードもついていました)
年数、産地ごとの価格も明示され、陳皮の状態もきれいで、お土産に買って帰りたい気持ちになりました。ガラスのポットで煮出して試飲できますとのことでしたが、時間がなくて頂かずにお店を後にしました。一個の皮の1/3片を煮だして湯を足しながら1日ずっと飲めるとのことでした。
ラベルのURL http://www.chenpicun.com/cover-9.html を開くと
陳皮村-江門市新会 陳皮村市場股份有限公司のウェブサイトでした。上記と同じ商品が見れました。 陳皮村は陳皮テーマパークのような雰囲気で、三産融合との施設だと書かれています。三産融合とは農業の1生産、2加工、3サービスの一体化のようです。ここなら陳皮や小青柑などを安心して買えそうな気がします。 Trip.com に行った方のレポートがありました。
日本で買える陳皮の種類
陳皮は、一般的なスーパーで見かけることはほとんどありません。私は中国の方から陳皮を頂く前、漢方薬局の薬日本堂の店舗で見かけたので買ってみたことがあります。料理やお茶にプラスする用途で刻みの形状です。紅茶やハーブティーに棗、クコ、陳皮などを一緒に入れて飲みました。(体を温めて気血を巡らす目的)
ネットショップでは、原形、細切り、顆粒、より細かい刻み、パウダーなどの陳皮が見られます。お茶に入れる、スパイスを作る、お菓子に入れるなどなど、用途によって適切な形状を選ぶと良いと思います。
以下はAmazonで販売しているものです。
スパイスとしての陳皮
余談ですが、陳皮はスパイスとしても古くから日本で使われています。 七味唐辛子にも、そして意外かもしれませんが、市販のカレー粉にも陳皮が入っています。いつも使っている S&B ナチュラルピュアカレーパウダーにも入っていることを確認しました。
七味唐辛子メーカーの八幡屋礒五郎のウェブサイトには、「七味唐辛子は、(中略)1625年 (中略) 漢方薬を基に生薬を組み合わせて七味唐辛子を売り出し~」 と 七味唐辛子 歴史の紹介がありました。
生薬としての陳皮 (漢方薬の成分として)
陳皮は食薬です。食薬とは、生活の中で養生に取り入れることができる食材(食)で、また漢方薬の原料のとしても用いられます(生薬)。食薬は、他にも山芋(生薬としては「山薬さんやく」という名で呼ばれます)、はとむぎ(薏苡仁よくいにん)、生姜(生姜しょうきょう)などがあります。
陳皮は生薬の分類では「理気薬」「行気薬」になります(気を巡らす、巡らして鬱滞を解く作用)。性質や効能は下記の様に示されています(中医学で表現されているものです)
【味】辛 苦 (「辛」が”めぐらす”、陳皮の「苦」は”燥”の効能があり、体の湿邪(こもった湿気)を取り除く)
【性質】温 (この温性により、体内の寒気を除く方向に作用)
【帰経】脾 肺 (「脾」はおなかの調子などに関係。「肺」は咳や痰などに関係)
【効能】理気健脾:気が巡らないことで腹部が膨れるような詰まるような感じ、食欲不振を改善
【効能】燥湿化痰:体内の余分な水や湿気が肺に悪影響を及ぼし、息切れ、咳や痰(量が多くて白い痰)がでる状況を改善
【使用上の注意(陳皮単独使用での場合)】陰虚、気虚による空咳には使用しない
上記の内容を含めた、中医医師が紹介する良い動画があったので下記に紹介します。(中国語)
ちなみに陳皮は、中国語簡体字で「陈皮」で、「chén pí チェンピー」 と発音します。
タイトル:専門家が詳しく解説:陳皮の薬効と病気の治療への応用 (陈皮药性及其在治疗疾病中的应用)
画面には、「药物请在医师指导下使用 (薬物(生薬)は医師の指導の下で使用してください)」との注意書きも出ています。
陳皮が入った漢方薬
陳皮が含まれる漢方薬です。
二陳湯、香蘇散を含め様々な漢方薬に使われています。「陳」は古いという意味がありますが、二陳湯(にちんとう)に含まれる半夏(はんげ)と陳皮は古い方が薬効が高いということから、二陳との名がついたそうです。
二陳湯は袪痰剤というカテゴリーの薬で、身体に滞っている良くない水を取り去り、その水が原因である症状を治すと言われます。(痰、咳、悪心、嘔吐、身体の重だるさ、めまい、動悸など)
二陳湯では、陳皮は気をめぐらせて、身体の中のある良くない水(湿痰)を消散させるという役割を担っています。
以下、国立研究開発法人 薬用植物資源研究センターの薬用植物総合情報データベースからの抜粋です。生薬となるとカタカナで「チンピ」と表されます。
生薬名: チンピ
生薬英名: Citrus Unshiu Peel
生薬ラテン名: AURANTII NOBILIS PERICARPIUM
生薬和名: 陳皮
部位:成熟した果皮
生薬成分:精油:d-limonene(d-リモネン), aurapyene(アウラプテン), auraptin, linalool(リナロール), terpineol(テルピネオール) など
フラバノン配糖体:hesperidin(ヘスペリジン), neohesperidin, naringin(ナリンギン), nobiletin(ノビレチン) など
アルカロイド:synephrine(シネフリン) など ペクチン クエン酸
成分(化合物): Epihesperidin(エピヘスペリジン) , Hesperidin(ヘスペリジン)
用途:「芳香性苦味健胃薬、漢方処方用薬として健胃消化薬、鎮咳、去痰薬とみなさる処方及びその他の処方に高頻度に配合される」
処方:胃苓湯,温胆湯,化食養脾湯,藿香正気散,加味温胆湯,加味平胃散,芎帰調血飲,芎帰調血飲第一加減,杏蘇散,啓脾湯,香砂平胃散,香砂養胃湯,香砂六君子湯,香蘇散,五積散,実脾飲、柴芍六君子湯,滋陰降火湯,滋陰至宝湯,秦艽防風湯,参蘇飲,神秘湯,清湿化痰湯,清暑益気湯,清肺湯,疎経活血湯,蘇子降気湯,竹茹温胆湯,丁香柿蒂湯,通導散,二朮湯,二陳湯,人参養栄湯,半夏白朮天麻湯,不換金正気散,茯苓飲,茯苓飲加半夏,茯苓飲合半夏厚朴湯,分消湯,平胃散,補気建中湯,補中益気湯,抑肝散加陳皮半夏,六君子湯.
中国人の方々の使用法とも一致する胃腸の調子を整える作用、咳、痰に対する効果もあるようです。高頻度という点でも色々な効果がある、合わせやすいなどのイメージを持ちます。
書籍「医師・薬剤師のための 漢方のエッセンス」では、代表的な漢方薬の中で陳皮がどのような作用をしているかが説明されています。
陳皮と中医学の処方箋
以下は、北京の白雲観内の診療所に併設された中薬の薬局(薬剤室)です(2019年12月)。引き出しに生薬(乾燥した薬草など)が入っています。「陳皮」の引き出もありました。
例えば、二陳湯という薬は、半夏、陳皮、茯苓、生姜、甘草で構成されています。
漢方薬剤師は、処方箋上の生薬名をもとに準備してくれます(下写真参考)。患者は全ての生薬を一緒に煮だして飲みます。
一方、日本では病院で処方される漢方薬といえば、エキス剤が中心ではないかと思います。
煮だして飲む方(煎じ薬)が効果は高いと聞きますが、エキス剤は、保管も簡単で、持ち歩いていつでも飲める点が便利です。便利、簡単なものは続けやすいと思います。
下の写真は中国の中医学の病院から出た処方箋です。知人が見せてくれました。中医学で診断する症状名と、生薬名とグラム数などが書かれていてます。(この処方には陳皮は入っていません。処方箋の参考写真です。)
「14日分、毎日水で煮だして二回に分けて温かくして飲む」とあります。14日分で日本円で約2万円です。
体が冷えて温める力がない(疲れやすい)「脾腎陽虚」への処方で、不妊治療の一環で(恐らく冷えをとり、気血を補うような処方として)出されたものです。体が冷えていると妊娠しにくいと言われます。この方は後に無事に出産されました。
中国の陳皮ブーム その2 (新型肺炎絡み)
2021年1月、中国の茶葉店友人に最近はどんなお茶が流行っているのか聞いてみました。
すると意外な回答でした。新型肺炎の関連で、白茶と陳皮がすごく売れているらしいのです。陳皮は数年前にブームのピークを過ぎたと思っていましたが…
中国語原文:今年疫情,白茶和陈皮火得不得了。
日本語訳:今年コロナの影響で、白茶と陳皮がすごく流行っています。
中国語の火得不得了は、火=ホット、不得了=甚だしく のという意味です。とにかく売れているらしいのです。
どうして陳皮がコロナに良いのか尋ねてみると、「陳皮は薬に入れるのものです。どこの中薬(漢方薬)薬局にもあります(陈皮本身就是入药的,中药房里都有)」との回答でした。
良く分からなかったので、どんな情報がネットにでてるのか中国百度で調べてみたところ…
政府が指示するコロナの治療計画に「清肺排毒湯」という漢方薬が挙がっていて、それに陳皮が含まれている → その情報を陳皮販売関連の人々が大きく取り上げ、陳皮はコロナに良いとのイメージが広がったように見えました。
そもそも、白茶やプーアル茶と陳皮を煮だしてて飲むことが健康に良く、良いペアリングだと広まっていたうえでの(再)ブームだと思います。
新型コロナウイルス肺炎治療計画「清肺排毒湯」中の陳皮
中国で2020年に発布された、新型コロナウイルス肺炎治療計画の情報です。
中国政府 国家衛生健康委員会事務局文書
「新型コロナウイルス肺炎の診断・治療計画書(第8回試行版)発行のお知らせ」
http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2020-08/19/content_5535757.htm
上記とは別の国家中医薬管理局のページが見やすいので、下記に抜粋します。
訳:2020年2月
国家中医薬管理局は積極的に、第一線の臨床医の参与と有効な処方の選択を行っています。近年の中国伝統医学の臨床治療と有効性の観察に基づいて、ここに「清肺排毒湯」の各地での使用を推奨します。
「清肺排毒湯」は、「麻杏石甘湯」「射干麻黄湯」「小柴胡湯」「五苓散」を含む、中医の古典処方を組み合わせたものです。国家中医薬管理局积极组织一线临床医生参与筛选有效方剂,根据近期中医药临床求治及疗效观察情况,现将”清肺排毒湯” 推荐各地使用。处方组方: 清肺排毒湯来源于中医经典方剂组合,包括麻杏石甘汤,射干麻黄汤,小柴胡汤,五苓散…
「清肺排毒湯 せいはいはいどくとう」には表中の生薬が含まれ、陳皮はその一つです。
清肺排毒湯:麻黄、炙甘草、杏仁、生石膏(先煎)、桂枝、沢瀉、猪苓、白朮、茯苓、柴胡、黄芩、姜半夏、紫菀、冬花、射干、細辛、山薬、枳実、陳皮、藿香
(以下参考)
麻杏石甘湯:麻黄、石膏、杏仁、甘草
射干麻黄湯:射干、麻黄、生姜、細辛、紫菀、款冬花、大棗、半夏、五味子
小柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、人参、大棗、生姜、甘草
五苓散:沢瀉、茯苓、猪苓、白朮、桂皮
ーーー
清肺湯(※):黄金、山梔子、五味子、天門冬、麦門冬、桔梗、杏仁、桑白皮、竹筎、貝母、陳皮、茯苓、当帰、生姜、大棗、甘草
ところで、中国ではコロナ中に陳皮ブームには「”陳皮水”は新型肺炎の予防にはならない」と注意喚起のニュースなどもでていました。(陳皮が体に良い作用があっても、新型肺炎の予防になると捉えワクチンほどの効果と考えてしまう人がいては危険です。)
陳皮単体はコロナの予防や治療には使えませんが、健胃、消化、鎮咳、去痰作用があるので、体調を整える目的や養生として摂取される方が多いのだと思います。
ちなみに、中医学の五行説で「培土生金」という考えがあり、土である脾(胃腸)の調子を整えれば、金である肺の調子が良くなるというものです。陳皮が清肺湯※などに入っているのは、理気化痰作用の他に、培土生金の観点もあるようです。
中国では「培土生金」の食材で一番に上がるの山芋です。手に入れやすい山芋や陳皮で、胃腸と肺の調子を日頃から整えることができると良いですね。
養生におすすめの本です(体からのサインを知り、自分で調子を整える知識がつきます)↓
「やさしい漢方 未病の地図帖(不調の原因とセルフケアがよくわかる)」
※(参考)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)はコロナの時の咳に使えると有名になりました。麻黄と杏仁が咳・呼吸を整え、石膏が清熱をします。甘草が胃を保護し、石膏の刺激をやわらげたり、成分の生薬全体を調和します。この方剤には麻黄が入っていて、虚弱な人、血圧が高い人、循環器疾患、重度の腎疾患、高齢者の人には向かない場合があります。また、長期で服用する性質のものではありません。医師に相談の上摂取してください。(参考:ツムラ 使用上の注意)(麻杏甘石湯 中医師の説明 中国語)(参考:薬日本堂 麻黄湯と麻杏甘石湯の違い)
陳皮とアルツハイマー病の予防効果の研究
また、みかん、陳皮の成分(ノビレチンなど)のアルツハイマー病の予防効果について、東北大学、静岡大学などで研究が行われたそうです。
近年注目されている神経に関する処方に人参養栄湯があります。以下にその陳皮薬理作用について解説したクラシエの資料(PDF)をリンクします。
陳皮は、人参養栄湯や抑肝散加陳皮半夏などの漢方処方に配合されている。主な成分は、ヘスペリジン、ナリルチン、ノビレチンなどであり、多彩な作用を有することが確認されている。
アルツハイマー病の発症機構と陳皮の臨床応用(第35回日本認知症学会学術集会 セミナー)
陳皮関連の動画 ミカン畑・栽培 陳皮の品質鑑定
言語が中国語なので、映像だけでも楽しめるものを選びました。
タイトル:日常の”陳皮””がなぜ広東三宝になったのか(1分24秒)
低调的“陈皮”是如何成为广东三宝之一的
f5db94
https://haokan.baidu.com/v?f5db94vid=8714340618709090156&pd=bjh&fr=bjhauthor&type=video
映像:
ミカンの収穫/皮むき/果肉を川に投入(魚のえさ)
ポイント:
◎広東省新会の陳皮は広東三宝のひとつ。
◎嶺南水郷(広東省の水辺の昔ながらの生活スタイルがある地域)の人々の紹介。陳皮を茶、粥、酒に入れて使う。
◎皮を陳皮に使用、果肉は魚の飼料にする。
タイトル:ミカンの皮を干したら陳皮になるって本当ですか(9分)
CCTV[是真的吗]橘子皮晒干就是陈皮 是真的吗?
http://tv.cctv.com/2019/12/14/VIDEzngEsA9UC72J5YRpMaA6191214.shtml?spm=C22284.PUqYTQV1dwy3.EZIvdu3WO1TC.268 (PCで見れない場合でもスマホでは見れます)
映像:(57秒からご覧ください)
新会の環境/ミカン収穫/生産/保存/飲み方/品質鑑定方法(選び方)/27-100年物の陳皮外観
ポイント:
◎品種は茶枝柑。油室(果皮細胞で揮発油が入っているところ。ミカン表面に見える点々)が豊富
◎皮を剥いて3-4日干したものは半製品。それから3年寝かせて(保存)製品となる
◎新会の栽培については700年前の文献に記載がある
◎新会の環境が良い品質のミカンを作る(高温多湿 平均気温22.8度)
◎果皮糖分が高い。平均5-6%超
鑑定方法:
① 目視する(油室が密集しているか、分布が均等か)
② 擦って香りを聞く(新:清らかな果香。古:落ち着いた沈香や薬香 )
③ 味をみる(新:酸味の中に苦み 。古:まるく深みと厚みがでている)
健康効果: to be updated.
チンピとオレンジの精油(アロマオイル)の共通点
オレンジの精油の効能が、チンピの胃腸や精神(気分)に対する効能と同様なので紹介します。
前述の薬用植物総合情報データベースでチンピには精油の成分 d-limonene(d-リモネン)が含まれるとのことでしたが、オレンジの精油の含有成分はd-リモネンが90-98%です(平均値)。
オレンジの精油は「オレンジスイート」という名前で販売されています。オレンジスイートの精油は果皮を圧搾して芳香成分を抽出します。チンピも果皮であるため、効能は共通点があると思います。
品名 | チンピ (陳皮) | オレンジスイート (精油) |
---|---|---|
原料 | 温州みかん | 「オレンジ」として食べているもの |
部位 | 果皮 | 果皮を圧搾 |
使い方 | ・食用 ・飲用 ・薬 | ・芳香浴 ・希釈してマッサージ ※ホホバオイルなどのキャリアオイルに1-2滴入れて使用 |
成分 吸収経路 | 消化管から(飲食) | 鼻粘膜から(匂い) 皮膚から(マッサージ) |
作用 効能 | 健胃、消化、鎮咳、去痰、 理気 (気を巡らす) ストレスで気(胸)が詰まっている、 イライラした感じの解消など | 健胃、消化促進、鎮痛、誘眠、 駆風 (胃腸内にたまったガスの排出を促す) 空気清浄、空気防臭 精神強化、精神高揚 (上記ケモタイプ精油小事典より) 気分を明るくリフレッシュ+リラックス |
陳皮が手に入らない場合、オレンジスイート精油の効能が症状に合えば、使ってみるのも良いかと思います。
写真は、生活の木で購入したオレンジスイート精油と成分表をダウンロードしたものです。(精油はエッセンシャルオイルともいいます)
精油の香りはミカンを剥いている時の爽やかな香りで、特に乾燥した冬など、空間や気分をリフレッシュする効果は大きいと思います。
リフレッシュ+リラックスするというのは、この精油には甘い香りがあり、張りつめている肩の力を抜いてくれるような効果があります。緊張を解き、気分を高めてくれると思います。自然に笑顔がでます。
以下、生活の木のオーガニックオレンジスイートのリンクです。生活の木の精油は成分分析の結果が公開されているので、皮膚に塗る場合にも安心感があります。(精油を皮膚塗布する場合は、基本的にキャリアオイルに数滴入れて使います。希釈が基本で原液塗布することはほとんどありません。)
精油事典は、オレンジスイートの説明ページが試し読みで見れます。精油をデータと感覚で理解できる良い本です。
以上、歴史的にも長く飲用されている陳皮の話でした。長文お読みいただきありがとうございました。