珠洲焼(すずやき)とは|石川 奥能登 美しく黒いやきもの|中世と現代の比較 Suzu-yaki, Beautiful Black Pottery in Japan, Land of Black Beauty

こんにちは。珠洲焼(すずやき)のお話です。
海外の方は、日本の他の産地では見られない無釉の黒い日本の器に魅力を感じています。
ナチュラルブラックビューティ、そしてレイヤー(層、深み)を感じると言われるSUZUYAKI。その特徴と美をご紹介します。
現代と中世の珠洲焼を比較します。また各国での珠洲焼のシーンを紹介します。
Contents
珠洲焼(すずやき)とは
珠洲焼とは、石川県の能登半島の先端 珠洲市で作られる黒い無釉のやきものです。
陶器、磁器、炻器(せっき)の分類では炻器になります。石川県の伝統的工芸品です。
(珠洲(すず)は場所の名前であり、鈴焼ではありません)

美しい黒の町 珠洲(すず)
珠洲は美しい黒の町です。
石川県 能登空港から珠洲市へ向かう道、そして珠洲市のあちこちで目につくのは家屋の屋根を飾る麗しい黒いやきもの、瓦です。(能登瓦)
整然と並び、艶やかな光を放つ黒瓦と、ひとつひとつ味わいが異なる、温かく柔らかな珠洲焼の黒。珠洲を訪れると、この土地が生み出した美しい黒の世界に浸れます。
また緑も多く、黒との対比を鮮やかに感じます。

珠洲で一番か高い山からの光景です。(11月)

珠洲と言えば、珪藻土、縄文遺跡、米、海鮮、酒、塩、自然、海、風 … 新鮮な食材、歴史と文化、自然と陶芸 を愉しめる場所です。
道路が広く人が少ない、ドライブやサイクリングは快適です。
NHK BSプレミアム イッピン 珠洲焼特集 3度目の放送でした。
「手になじみ 目に楽しい黒の器~石川 珠洲焼~」
2020年08月04日 (火) 昼 12:00 ~ 12:30 (30分)
現代の珠洲焼(すずやき)
静かな美の秘密
薪窯で焼かれた珠洲焼はグレー、緑、ピンクなどの自然釉(薪の灰が窯の中で器にかかったもの)が見られます。
黒地に柔らかな色が深い層を作っています。(ガス窯で焼く作品もあります。)
自然釉について:
(珠洲焼のように)釉薬を用いないやきものでは、燃料として使った薪の灰が器にかかり、灰のアルカリ分が高温の為に粘土の長石をとかしてガラス状になるものがあります。薪窯で灰は自然に釉薬の働きをするので自然釉とも呼ばれます。(釉というのはやきものの表面のガラス質の皮膜をいいます。)-やきものの本より
器を窯で焼く時、薪を燃料にすると、薪(松の木など)が燃えて灰となり、窯の中で器の上に降りかかります。
それが美しい色彩や複雑な質感を生み出します


薪を24時間ⅹ数日 燃やし続けることは大変な作業ですが、薪窯ならではの美があります。

本章と次章の作品は、珠洲焼作家の游戯窯 (ゆげがま) 篠原敬(SHINOHARA TAKASHI)さんの器です。

空間にみる珠洲焼
珠洲焼は、見る人の気持ちを落ち着かせ、清らかな気分にしてくれます。

珠洲焼の器は自然の中の植物を、更に美しく見せることができると感じます。


珠洲焼で花を生けると凛とした雰囲気になります。花と珠洲焼は以下のブログをご覧ください。
海外の方が見る珠洲焼
海外の珠洲焼を購入したお客様が写真を送ってくれました。
ドイツ ロシア 中国 スペイン
各国からのメッセージは 以下の日本の珠洲焼(すずやき)ライフスタイル写真集 をご覧ください。

珠洲焼の茶器とお茶
各国から届いた珠洲焼茶器でお茶を淹れた感想です。珠洲焼がお茶に与える影響が分かります。ブログ:珠洲焼(すずやき)の茶器と中国茶 日本茶 お茶の味 世界各国からのレポ-ト

中世の珠洲焼(すずやき)
中世の珠洲焼の 壺 や甕 が、渋谷ヒカリエの「珠洲焼展覧会」に展示されました ( 2019年9月 )。その特徴は同じです。
黒い、無釉、薪窯で焼いた、自然釉。 そして壺、甕は 底が小さいという特徴が見られます。
現代の珠洲焼で紹介の篠原敬さんの急須の下部は、珠洲焼の原点のフォルム、小さく締まった底が再現されています。
底部に向けてのシャープさがあるラインは「ザ・珠洲焼」な感じです。
これらは12世紀~15世紀初のものです。写真はライトの関係で、色や自然釉がはっきりしませんが、実物から受ける印象は、やはり素朴で静かな美 でした。
より早い時期のものは黒というよりグレーな色合いです。
原料の土に鉄分が多いと(そして窯の温度が高いと)より黒くなると説明を受けました。15世紀に近づくと、窯の温度も高く上げれるようになり、黒色の深いものが見られました。
鉄分が多い土は、還元焼成で黒くなります(窯の中に酸素が少ない状態)。窯の中に酸素がある酸化焼成だと赤くなります。
珠洲焼は還元焼成をします。

上の四耳壺(しじこ)は黒々とした部分が多く、表面の光沢もあり深みがありました。(写真では分かりづらいです)
この展示品は、通常石川県珠洲市の珠洲焼資料館で見れます。最下部に資料館の情報を載せています。
東京国立博物館の珠洲焼(すずやき)六古窯と比較
東京国立博物館(トーハク)に珠洲焼と平安・鎌倉のやきものとの比較展示がありました(2019年)。
比べてみると、はっきりと 珠洲焼の特徴 黒色と底の締まった感じが見てとれます。どれが珠洲焼か分かりますか。
日本の六古窯となっているのは常滑焼、信楽焼、丹波焼、越前焼、瀬戸焼、備前焼です。(信楽はありませんでした)

珠洲焼は、底に向かうラインがシャープです。

一番左が珠洲焼です。トーハクの展示写真は下記ブログをご覧ください。
比べてみると、珠洲は黒み・グレーです。他の産地は赤みがあります。

展示の説明です。平成~室町時代のやきもの(大壺だいこ、大瓶おおがめの魅力)に堂々と珠洲焼が入っています。 下はトーハクの解説文です。
平安時代末の12世紀になると、産業と経済の発達にともなって古代須恵器や灰釉陶の生産技術を基礎に、各地で新しい窯場が台頭します。
東京国立博物館
自然釉のかかった常滑・渥美(とこなめ・あつみ)、須恵器から展開した珠洲(すず)が中心となり、擂鉢や碗皿類のほか、壺や甕などの大型品が作られました。

日本文化遺産の珠洲焼
文化庁運営の「文化遺産オンライン」で中世の珠洲焼と解説が見れます。 全国の博物館の作品や国宝・重要文化財などが見れるサイトです。
キーワードに「珠洲」と入れて検索してみてください。陶磁器以外も含まれますが、30点程検索されます。例えば以下のような作品が見れます。
- 珠洲草樹文壺(鎌倉時代)京都国立博物館
- 珠洲巴文大壺(平安時代)東京国立博物館
文化遺産オンライン データベース
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages
500年の沈黙「幻の古陶」
実は、珠洲焼は15世紀に突然途絶えてしまいました。「忽然と姿を消した」「幻の古陶」などと言われていました。
現代の珠洲焼は、約50年ほど前に復活したものなのです。 長い間知られておらず、現代その存在が明らかになり、そして復興をとげたのです。
未知のやきもの発見 、1961年「珠洲焼」と命名
ある古美術研究家が灰黒色の四耳壺と出会ったことが、珠洲焼が500年の眠りから覚めるきっかけとなりました。
彼はその未知のやきものルーツを探りに珠洲へ行き、地元郷土史研究家と調査を行いました。
そして、そのやきものが中世の陶器と分かり「珠洲焼」と命名されました。1961年(昭和36年)のことでした。
珠洲焼復興までの道のり
2019年5月に 、復興までの道のりが朝日新聞にシリーズで特集されました。復興に人生の大部分を捧げた人、関わる人の様々な苦労や想い。それが分かるとても良い記事でした。
中世の珠洲焼の製作(叩きについて)
現代は陶土を精製して使いやすくしているため、あえて強度を出すために叩く必要性はありません。
中世では陶土を原土のまま成型していたようなので、叩くことによって土を締める必要があったと思われます。叩きの技法は元来、加飾ではなく、土を締める目的でした。多くは叩いた後に叩き目をヘラで落として研磨してあります。
現代珠洲焼作家
しかし後に意図的に叩き目を加飾として残すことを前提に叩かれた壺が現れます。綾杉文は典型的な加飾の叩きです。
これまでの中世の珠洲焼の解説
1998年発行 にほんやきもの史(監修 矢部良明氏)での珠洲焼の解説(下記抜粋)を、珠洲焼ファンとして嬉しく思っていました。ただ、六古窯の名声に隠れているという点が気になっていました。
この六古窯の名声に隠れて、その存在を知られていなかった古窯に…(中略)石川県珠洲市の珠洲焼がある。
にほんやきもの史
ちなみに須恵器系の窯としては…(中略)なかでも、造形的にとくに抜きん出ているのは、やはり、石川県の珠洲焼である。その黒光りする素地肌。鋭敏なエッジを利かせた造形と、重厚な作りの大壺は人をして感動させる迫力がそなわっている。
にほんやきもの史
この書籍発行から約20年後である2019年、上述の東京国立博物館での展示と解説を見て、研究により中世での珠洲焼の存在の大きさが、より明らかになったのだと感じました。
石川県珠洲市 珠洲焼資料館
珠洲焼資料館では、たくさんの中世の大壺や大甕の展示があります。壺に刻まれた様々な模様、刻字などをじっくり見ることができます。
珠洲焼資料館 館蔵品が見れるページです。https://www.city.suzu.lg.jp/suzuyaki/collection/index.html

以上、珠洲焼のお話でした。よろしければ 珠洲焼関連ブログもご覧ください。